タシガン
ブータンの東西を繋ぐ東西縦貫道路の東側の終着点・タシガン。ダンメ・チュを見下ろす山の斜面に広がるこの街は東ブータンの中心地として発展してきました。パロやティンプーから陸路で向かうと3日はかかる距離に位置しますが、インドとの国境の街サムドゥプ・ジョンカルからは車で一日の距離。天候が安定していればパロから国内線に乗ってタシガンに向かうことも可能になりました。
メラやサクテン等ブータンの他の地域とは全く異なった文化を持つ人々が暮らす地域もあり、多くの見どころが存在するタシガン。西ブータン、中央ブータンとはまた違った魅力を持つ東ブータン・タシガンの見どころをご紹介します。
チャザム
モンガルのダミツェから東西縦貫道をさらに東へ走ると、タシ・ヤンツェとタシガンへの分岐点となるチャザムの橋に到着します。
今は立派な橋が架かっているこの場所。チャザムとは元々チャク・ザム(鉄の橋)を意味する言葉が変わった呼び名でで、その昔ここにタントン・ギャルポが鉄の橋を架けた事からそのように呼ばれています。タントン・ギャルポがかけた鉄の橋は1970年代まで現存していましたが、洪水で流されてしまい今は見ることが出来ません。ここから橋を渡り、坂道を登っていくとタシガンの街に到着します。
タシガンの街
東ブータンの中心地・タシガンの街。街道を少しそれた場所にある広場沿いには多くの商店が軒を連ね、小さいながらも活気に溢れたバザールが広がっています。
ここが元々のタシガンの街の中心だった場所。現在は街の発展とと共にバザールはどんどん大きくなっています。
タシガンから南へ一日走れば南部の国境の街サムドゥプ・ジョンカルへ。東へ走ればメラ・サクテン地方へ。そして天候が安定していれば近くのヨンプラ空港からパロ迄飛行機で移動することも可能になりました。名実ともに東ブータンの中心地となる街です。
タシガン・ゾン
17世紀に建てられたタシガン・ゾン。何度も改修工事を続けていましたが、2010年に地震が発生し大きな被害を受けました。その後ずっと修復工事が続けられ現在は以前のような美しい姿を見ることが出来るようになっています。
街の中心から多くの商店が並ぶバザールを歩いて約10分の場所に建つタシガン・ゾン。毎年冬にはタシガン・ツェチュが開催され多くの観光客が東ブータンを訪れています。
ランジュン
タシガンの街からさらに車で東へ40分程走るとランジュンの街に到着します。近くには職業訓練校もあり、街中には大きな僧院や学校などもあるランジュンの街。立地上、タシガンの街がこれ以上拡大出来ないという事もあり、街の移転先として計画的な都市開発の下で新しく造られた街です。ランジュンから少し東に行くとブラ(野蚕)の織物で有名なラディという集落が見えてきます。
ランジュン・ウェセル・チョリン
ランジュンの街外れに建つニンマ派の大僧院ランジュン・ウェセル・チョリン・ゴンパ。街のシンボルにもなっているこの巨大な僧院の内部には美しい壁画が描かれています。ご本尊はもちろんニンマ派の開祖であるグル・リンポチェ像。今も多くの僧侶がこの場所で生活をしています。
ランジュンからポンメへ
ランジュンの街からさらに東へ。ラディの集落を過ぎ、さらに先へ進んでいくとメラ・サクテンに車道が通じる以前は自動車で行ける最東端の村だったポンメに到着します。この周辺には美しい棚田が広がっており、季節によって異なる美しい光景を見ることが出来ます。未舗装ではありますが、何度通っても本当に気持ちが良い絶景のルートです。
ポンメ
メラ・サクテンへの自動車道が通じるまでは車で行けるブータン最東端の村だったのがポンメの集落。ここまで来るとポンメの集落まで来ているメラ・サクテンの人々とよく出会います。
今はメラ・サクテンにも電気が通じていますが、それ以前はみな携帯電話をポンメまで充電しに来て、そのついでに買い出しをして帰っていたのだとか。ポンメから先はサクテン野生生物保護区に入っていきます。
ポンメ チェンレージ・ラカン
ポンメの街に建つ小さなお堂。街道沿いの少し上に建っているので知らなければ気付かずに通り過ぎてしまいそうな場所に建っていますが、時間があればぜひ立ち寄っていただきたい素晴らしいお寺です。お堂内部には素晴らしい仏像や仏具、壁画等。そして何と言ってもここから見渡すガムリ・チュ沿いの景色はまさに絶景!です。
カンルン サンドペルリ・ラカン
タシガンから南部のサムドゥプジョンカルへ向かう道中、カンルンという街に建つ一際目を惹く建物がサンドペルリ・ラカン。”サンドペルリ”とは現在もパドマサンヴァバが住んでいると言われている宮殿のこと。もちろんこの寺院のご本尊はパドマサンヴァバです。
サンドペルリ・ラカンの目の前にはブータンの最高学府であるシェラブツェ・カレッジの敷地が広がっています。
ヨンプラ空港
カンルンからさらに南へ走ると、ヨンプラ空港へと向かう分かれ道が見えてきます。現在ブータン国内にある空港は西ブータンのパロ、中央ブータンのブムタン、南部のゲレフとここヨンプラの4ヶ所。ヨンプラ空港は東ブータンの入り口となる空港で、元々インド軍が使っていた滑走路を修復して作られました。
標高2,540mの尾根上にあるこの空港が開港し、パロからの国内線が運航を開始した事で東西の移動がグッと楽になったのですが、天候が悪いとすぐにフライトキャンセルになるのが難点です。
カリン 織物訓練校
ヨンプラからさらに南へ向かって行くと、カリンという集落に到着します。カリンには1960年代から70年代にかけて多くの学校や盲学校、そして織物訓練校が建てられました。
織物訓練校では現在も数名の学生さんがブータン伝統の織の技術を学んでいます。
メラ・サクテン地方
ブータンの最東端、ダライラマ14世の亡命ルートとしても知られるインドのアルナチャール・プラデーシュ州と国境を接する地域がメラ・サクテン地方です。
この地方はブータンの他の地域とは異なり、チベット仏教ゲルク派が主流で、女性はシンカと呼ばれる貫頭衣を、男性は厚手のウールのチュバを身にまとい、ヤクのフェルトで出来た特徴的な帽子をかぶるブロクパと呼ばれる遊牧民が住んでいます。
1980年代以降、外国人の訪問を禁止していたこの地域ですが、2010年9月1日から正式に入域が許可されました。
とはいっても、まだまだインフラの整備が十分には進んでいないこの地域。以前は歩いて訪れる事しか出来なったのですが、数年前にタシガンからメラ、サクテンそれぞれへの自動車道路が開通したことにより今はタシガンから日帰りで訪れることも可能になっています。
この地域に住む人々はブータンの他の地域とは異なる言語、文化、風習のもとで生活しているので、メラ・サクテン地方を訪れてこの地方の文化に触れ、知るためには、現地に精通したガイドさんの同行が必須でしょう。
メラへの道
以前はラディ辺りからスタートして丸一日歩いてメラへ。その後峠を越えてサクテンへ向かいポンメの近くへとトレッキングで訪れるのが一般的でしたが、数年前に車道が通じた事により、現在はタシガンから約3~4時間でメラを訪れることが出来るようになっています。
メラへの道中にも女神アマ・ジョモに関係する多くの場所が点在しています。
メラ
標高3,500mの高地に位置する東ブータン・メラの集落。現在はこの街の入り口まで車道が通じています。近くにはゲンゴという集落もあり、メラに宿泊することでメラとゲンゴの集落をゆっくり見て回ることが可能。メラとゲンゴにはそれぞれゲルク派の寺院が一軒ずつ建っています。
メラの街には多くの民家が建ち並び、街の外れには小さいながらも小学校も。ブータンの他の地域の学校の制服はゴとキラですが、ここメラの学校の制服はもちろんこの地域の伝統衣装です。
メラはブータンの他の地域とは異なった伝統文化を守り続ける地域。東ブータンへ行かれる際は是非足を運んで頂きたい場所の一つです。
メラからサクテンへ
現在もメラからサクテンへは車道が通じていません。その為メラから直接サクテンへ向かうには以前と同じく歩いて行く事になります。
メラを出発してしばらく進むと、標高4,130mのニャクチュン・ラ(峠)に到着します。言い伝えによるとかつてメラ・サクテンの人たちの祖先がチベットから来た時、この峠を越える事が出来た人たちはメラに住まいを構え、越えられなかった人たちはサクテンに住まいを構えたのだとか。
ニャクチュン・ラを越え、ミツェルテンを越えさらに先へ。サクテン手前の最後の難関がジョモ・ラプツェと呼ばれるマニ壁が建つ峠です。この峠まで来ると遠くにサクテンの集落を望む事が出来ます。
サクテン
女神アマ・ジョモがチベットからやって来た際に最初に落ち着いた場所がサクテンの集落だと言われています。このサクテンの奥の山の向こうはインドのアルナーチャル・プラデーシュ州。ここからアルナーチャル・プラデーシュ州のタワンまでは本当にすぐ近くの距離です。
サクテンもメラと同じくゲルク派が主流の場所で、街の外れには小さなゲルク派の寺院が建っています。サクテンもぜひ一泊してゆっくりと散策して頂きたい場所です。
ジョモ・クンカル
メラ・サクテン地方に住む人々の祖先をチベットからこの地に連れてきたと言われているのが女神アマ・ジョモ。メラの南に位置する聖山ジョモ・クンカルにはその女神アマ・ジョモの宮殿があるとされており、今でもメラ・サクテンに住む人々はこの聖山ジョモ・クンカル、そしてアマ・ジョモへの篤い信仰心を持っています。
ジョモ・クンカルでは毎年ブータン歴の8月にお祭りが開催されています。山頂は女人禁制の為、女性たちは麓の湖の畔迄しか行く事が出来ません。
ヤク・チャム
チベットやインドのアルナーチャル・プラデーシュ、シッキム、ラダック等に受け継がれているヤク・チャムはブータンではこのメラ・サクテン地方でのみ見ることが出来ます。
ヤク・チャムはヤクを授かる神話を踊りにしたもの。ヤクの周囲で舞う仮面をつけた踊り手は数百年前に魔法を使う鳥の力によってヤクを授かった一族を表しています。現在もメラやサクテンのお祭りの際にはこのヤク・チャムやアチ・ラモというこの地域独特の踊りが舞われます。