ティンプー
GNPよりもGNHを大切にする雷龍の国ブータンの首都・ティンプー。1990年代後半から急速な発展を見せ、現在では近代的なホテルやお洒落なカフェやレストラン、多くの人が集まる商店などが軒を連ねるにぎやかな街となっています。人口も急速に増えつつあり、短い距離ながらも高速道路が開通したことで街はどんどん大きくなっていますが、昔と変わらず信号機はひとつもなく、ゆっくりと時間が流れるこの街。街全体に独特の雰囲気が漂う、どこか懐かしい感じのする首都・ティンプーの見どころをご紹介します。
タシチョ・ゾン
タシチョ・ゾンはブータンの宗教と政治の中心となるゾン。国王陛下のオフィスがあり、宗教界の最高権威であるジェ・ケンポ大僧正が夏の間に総本山を置く、本当の意味でのブータンの中央政庁です。「タシチョ」とは「祝福を受けた砦」を意味する言葉。周囲には官公庁が建ち並び、近くには現国王の宮殿も建っています。釘をまったく使わず、「ミゾ」と「ホゾ」の組み合わせのみで建てるブータンの伝統建築技法で建てられているため、外から軒下を眺めると少し波打っているのも特徴のひとつ。毎年秋には、現国王陛下の戴冠式の際に完成したゾンに隣接するツェチュ用スタジアムでティンプー・ツェチュが盛大に催されます。ティンプー・チュを挟んだゾンの対岸には国会議事堂が建っています。
メモリアルチョルテン
ティンプーの街のシンボルでもある白く大きなこのチョルテン(仏塔)。1972年に亡くなった第3代ジグミ・ドルジ・ウォンチュク国王が生前に建立を企画し、没後の1974年に国家事業として第3代国王を記念する意味も込めて造られました。
今も参拝者が絶えることはなく、一日中この場でマニ車を廻しながら観音菩薩の真言「オム・マニ・ぺメ・フム」を唱える敬虔なブータン人の姿を目にすることができます。仏塔は3階建てになっており、内部に描かれた美しい仏画や仏像は必見。特に中央に納められた憤怒尊の形をした歓喜仏(ヤブ・ユム)の立体マンダラはここでしか見ることができない貴重なものです。
チャンガンカ・ラカン
街外れの小高い丘の上に、15世紀創建の古刹チャンガンカ・ラカンが建っています。ご本尊は十一面観音ですが、その左側に納められているのがティンプーを守る「ドムツァップ」という守護神。そのため、このチャンガンカ・ラカンは首都ティンプーを守るお寺として参拝する人が後を絶たちません。ティンプーに住む人々は子どもが産まれたら必ずここにお参りし、僧侶に名前を付けてもらいます。
ブッダポイント(クエンセル・ポダン)
パロから向かってくると、首都ティンプー入口近くの左手の山上にひときわ大きなお釈迦様の像が現れます。ティンプー市街の南側の尾根に位置し、ティンプーを見守っているかのようなこの大仏が建つ場所がクエンセル・ポダン。地元の人々はブッダ・ポイントと呼んでいます。ティンプーからドチュ・ラの峠やプナカ方面へ向かう際にも、遠くにこの仏像を望むことができます。
王政100周年を記念して2007年から建立が開始されたプロジェクトですが、大仏像(Buddha Dordenma Statue)自体は2010年に開眼供養が行われ、高さは約51メートルととても大きいです。
鎌倉大仏の像の大きさは約11メートルですので、その約5倍の大きさ!世界で一番大きい座像ともいわれています。
モティタン動物園
(ターキン保護区)
ブータンの首都ティンプー・モティタン地域には国会議員の公邸や高級住宅が立ち並ぶエリアがあり、そのエリアを通り抜けさらに山の奥の方へ進んでいくとモティタン動物園(ターキン保護区)があります。現在は数頭のターキンが飼育されているだけですが、訪れた観光客は広い敷地の柵の外からターキンや他の動物の姿を観察することができます。
※”ターキン”とは?
ブータンの国獣・ターキンはウシ科に属した動物で、ニホンカモシカの仲間。好きな食べ物は樫やシャクナゲ、竹の葉など。ブータンの他、チベット地域周辺やインド北東部、ミャンマー北部で群れを作って暮らし、ヒマラヤの山々はもちろん国境をも越えて生息しています。ちなみにターキンは国際自然保護連合のレッドリストに登録されている絶滅危惧種なのですが、ミャンマー北部の山岳地帯やお隣インドのアルナーチャル・プラデーシュ州では貴重な栄養源として大切にされているとかなんとか。。標高1,000メートルを超える竹林やシャクナゲの森の中に住み、湿気や露を好むらしく、夏には標高4,000メートル周辺の草地のエリアまで登ります。
ドゥプトゥプ尼僧院
この尼僧院の正式な名前は”Thangtong Dewachen Durpthob Nunnery”。
「ドゥプトゥプ」とはブータンの各地に鉄製の吊橋を架けたと言われる、14~15世紀に活躍した高僧タントン・ギャルポのことで、この尼僧院は彼が瞑想をした場所に建てられています。
ご本尊はもちろんそのタントン・ギャルポで、本堂の奥にはなんとなく尼僧院に似つかわしくない長髪で白い髭を生やした大きなタントン・ギャルポ像が納められています。
デチェンポダン
多くの小僧さんたちが暮らし、現在は僧侶の学校にもなっているデチェンポダン。中央政庁タシチョ・ゾンが今の場所に建てられる前はこの場所にティンプーのゾンが建っていました。
チャンリミタン競技場
2008年11月に執り行われた現国王の戴冠式の際に整備されたブータンの国立競技場。
以前は小さな観客席があるだけの荒れたグラウンドが広がっていましたが、現在では美しい人工芝が敷かれ、一度に数万人を収容できる立派なスタジアムとして生まれ変わっています。
他の国と違うのは、国技である弓道の競技場が隣接していること。スタジアムが閑散としているときでもこの弓道場はいつも大きな歓声に包まれています。
ノルジン・ラムと手信号、クラフトバザール
首都・ティンプーの目抜き通りがノルジン・ラム。有名な「ブータンの手信号」を見ることが出来るメインストリートです。ここ数年で大きな発展を見せ、新しいホテルやお洒落なカフェやレストランが並んでいますが、昔からの店構えの商店もまだ数軒残っています。ティンプーの中心となるクロック・タワーの広場からノルジン・ラムの一番奥にあたるクラフト・バザールまで。その時々の流行を扱うお店を冷かしながらブラブラ歩いて散策を楽しんで頂きたい場所です。
民俗博物館
首都のティンプー周辺ではほとんど見られなくなった、築100年以上の民家を改築して造った博物館です。内部には昔ながらの伝統的な生活様式や日用品が展示されており、ブータンの伝統的な生活を知るうえで非常に興味深い博物館と言えます。
織物博物館
ティンプーのメインストリートであるノルジン・ラムを中心部から北西へ。タージ・タシホテルを越え、ハンディクラフトバザールを越えた右手に織物博物館が建っています。この博物館は先代王の王妃が建設した建物で、入口近くでブータンの染織に関する簡単なビデオを見てから、内部の展示室に入ります。
展示されている織物は王族に関係するものやブータンの各地から集められたものなど、ここでしか見ることのできない一級品ばかり。染織に興味のある方は必見の博物館です。
ジュンシ製紙工房
ティンプー・チュを挟んで街の反対側。丘の斜面に小さな製紙工房が建っています。ブータンでは昔から日本の和紙と似た技法で作るデショーと呼ばれる手漉き紙がありました。この製紙工房のオーナーは島根県に留学して和紙の製法を学んだ経歴を持っています。ブータン古来の方法と日本の和紙製法のいいところを組み合わせ、コウゾやミツマタを使った手漉き紙を制作、販売しています。工房で作られた手漉き紙を使ったお土産物屋も隣接しており、さまざまな手漉き紙製品が購入可能です。
中央郵便局
ティンプーの街の中心にある中央郵便局。入って右手奥にお土産物としても喜ばれる切手コーナーがあります。ブータンの切手は世界的にも有名で、ホログラム切手やブータン国家が流れるCD切手など、珍しい形や美しいデザインのものなどさまざまな切手が売られています。2008年の現国王戴冠式以降、その場で撮った自分の写真を3分ほどで使用可能な切手にしてくれるコーナーもできました。
ティンプー周辺
タンゴ僧院
ティンプーの街から北へ向かい自動車道の最終地点を右手へ。
車を降りた後はゆるやかな山道を歩けば、約40分でタンゴ僧院に到着します。
この僧院の歴史は12世紀までさかのぼり、現在は高等仏教学校として使われていることから多くの修行僧がこの僧院で暮らしています。
僧院の入口や内部には美しい壁画やマンダラが描かれており、周囲を飾る細やかな彫刻や内部に納められた見事な仏像なども含め、仏教芸術に興味のある方は必見の僧院です。
ここは「聖なる狂人」ドゥクパ・キンレイやシャブドゥン・ンガワン・ナムギャルにゆかりがある僧院とされており、現在でも高僧テンジン・ラプゲイがお住まいになる場所としても知られています。
チェリ僧院
1620年にブータン建国の祖であるシャブドゥン・ンガワン・ナムギャルが初めてブータンを訪れた際に建てられた僧院。
内部にはシャブドゥンの父親の遺骨が安置されているそうです。
緑深い山の斜面にはりつくようにして僧坊が建てられており、昔から瞑想場所として非常に重要な場所とされていました。
タンゴ僧院と同じく、自動車道の最終地点から伝統的なブータン建築の橋を渡り、山道を歩けば1時間半ほどでチェリ僧院に到着します。
チュ・ゾム
「チュ」とは「川」、「ゾム」とは「集まる場所」の意味。昔からブータンでは川の合流地点には聖なる力があふれていると考えられてきました。
ティンプー、パロ、ハ、プンツォリンへと向かう4つの道が交差し、パロ・チュとティンプー・チュが合流するこの場所には3つの仏塔(左からネパール式、チベット式、ブータン式)が建てられており、この聖なる場所を守っています。
パロからティンプーに向かう場合、このチュ・ゾムに架かる橋を越えたところからティンプー・ゾンカクに入ります。
ここから首都ティンプーの中心地までは約30分。ティンプー・チュ沿いの道をひた走ると、雷龍の国の首都に到着です。
シムトカ・ゾン
ティンプーから東へ向かうと、右手の丘の上に巨大なゾンが見えてきます。
ここに建つのがブータン最古のゾンであるシムトカ・ゾン。
1629年に建国の祖であるシャブドゥン・ンガワン・ナムギャルによって建てられました。
以前はゾンカ語の教師を育成するための学校としても使われており、昔ながらの版木を使った技法で経典を作成していましたが、現在ではその役割は他の場所に移されています。
お堂の内部にはお釈迦様や八大菩薩、千手観音、カンギュールやテンギュールが納められており、内部や入口付近、周囲の壁には美しい壁画やマンダラが描かれています。
タンゴ僧院と同じく仏教芸術に興味のある方は必見の場所でしょう。
ドチュ・ラ
首都ティンプーから東へ向かう途中、最初に越える峠が標高約3,150mのドチュ・ラ。この峠にはカフェテリアが建ち、お茶や食事を楽しむこともできます。天気がよければこの峠から北の方角にマサ・ガン(6,800m)やブータン最高峰であるガンカル・ピンスム(7,570m)などの美しいブータンヒマラヤの姿が臨めます。
この峠で訪れる人々を出迎えるのは、2004年に建てられた108基のチョルテン(仏塔)。2003年12月にインドとの国境地帯で起こった紛争の際、先代国王の一番上の王妃であるアジ・ドルジ・オンモによって建てられた仏塔です。この仏塔を見下ろす場所に建つのは、2008年に建てられたドゥック・ワンゲル・ラカン。このお寺も同じくアジ・ドルジ・オンモによって先代の王様のために建てられました。内部には、他のお寺とは異なる歴代王の現代的な壁画が描かれています。